AI エージェントは外へ広がる — 複数サービスをまたぐ(横)・AI を使い分ける(上)
前回は、AI エージェント が「一つのアプリの中で、自分で段取りを組んでやり切る」話をしました。 いわば「閉じた箱の中で、賢く動く」姿です。
今回は、その手が 箱の外へ伸びていく 話です。 エージェントは一つのアプリ・一つの AI の中に閉じません。 外へ広がる方向は、大きく二つあります。
- 横に広がる:Gmail・カレンダー・Slack など、複数のサービスをまたいで一つの AI が動く
- 上に広がる:得意な AI に得意な仕事を振る(Claude と Gemini の使い分け)
方向がちがうので、この記事でも見出しでハッキリ分けて見ていきます。 まずは全体像から。
二つの方向 — 「横に広がる」と「上に広がる」
同じ「外へ広がる」でも、横と上では広がるものが違います。 先にこの一枚で対比を押さえておくと、あとの話がすっきり入ります。
| 方向 | 何が広がる | たとえ | 具体例 |
|---|---|---|---|
| 横に広がる | またぐサービス | 一人で何役もこなす | Gmail → カレンダー → Slack |
| 上に広がる | 使う AI | 適材適所のチーム | Claude と Gemini を使い分け |
横は「またぐサービス」が増える、上は「使う AI」が増える。 向きが違うだけで、どちらも「一つのアプリ・一つの AI の中で閉じない」という同じ方向の広がりです。 では、それぞれ順番に見ていきましょう。
横に広がる — 複数サービスをまたいで一つの AI が動く
まずは「横」です。 横に広がるとは、一つの AI が複数のサービスをまたいで、一続きに動くことです。
たとえば、こんなお願いを考えてみてください。
「取引先からのメールを読んで、打ち合わせの日程を確定してカレンダーに入れて、決まった内容をチームの Slack に共有して」
これまでなら、Gmail を開いて読み、カレンダーを開いて入力し、Slack を開いて書き込む、と自分で行き来していました。 横に広がったエージェントは、この行き来を 同じ一つの AI が担当 して、一続きにこなします。
これを支えているのが MCP(外の道具につなぐ共通の差込口)です。 Gmail・カレンダー・Slack それぞれの MCP を登録しておくと、AI はそれらをまたいで操作できるようになります。 サービスの数が増えるほど、AI が一人でこなせる仕事の幅も広がっていきます。
上に広がる — 得意な AI に得意な仕事を振る
次は「上」です。 上に広がるとは、得意な AI に、得意な仕事を振ることです。
AI にも得意・不得意があります。 文章やコードが得意な AI もあれば、画像づくりや検索が得意な AI もある。 一つの AI で全部やろうとせず、仕事ごとに向いた AI に任せたほうが、結果はよくなります。
そこで登場するのが、まとめ役の AI です。 まとめ役は、目標を受け取ると「この仕事は Claude、この仕事は Gemini」と振り分けます。
- 文章の整理やコードづくり → Claude に任せる
- 画像を作る・広く情報を検索する → Gemini に任せる
これは「AI が AI に仕事を振る」しくみで、サブエージェント とも呼ばれます。 あなたの手間は増えません。 目標を渡すだけで、どの AI に振るかはまとめ役が判断してくれるからです。
どの AI が何を得意とするかのイメージは、Claude と ChatGPT の比較 も参考になります。
私の場合
私も実際、Claude を「元締め」に置いて、得意なところだけ別の AI に振る形をよく使います。
段取りや文章は Claude、画像づくりや検索は Gemini、細かいコードは ChatGPT、といった具合です(これが「上に広がる」)。
一方で「横」、つまり Gmail のようなサービスをまたいでつなぐ入口が OAuth で、私も今ちょうどこのあたりを勉強しています。
「このアプリにアクセスを許可しますか?」という、あの同意画面がまさにそれです。
横と上が組み合わさると
横(サービスをまたぐ)と上(AI を使い分ける)は、別々の話ではありません。 組み合わさると、もっと自然な仕事の流れになります。

さきほどのメールの例で言えば、こうです。
- 受信メールを読む(横:Gmail)
- 長い添付資料の要約は、要約が得意な AI に任せる(上:使い分け)
- 決まった日程をカレンダーに入れ、Slack に共有する(横:カレンダー・Slack)
このように、「またぐ(横)」と「使い分ける(上)」が重なって、一つの目標が最後まで進む。 一つのアプリ・一つの AI の中に閉じないからこそ、できることが一気に広がります。
注意点 — 手が外へ伸びるほど気をつける
外へ広がると便利ですが、AI の手が「外」に届くぶん、気をつける点も増えます。 難しく考えず、次の三つを頭の片隅に置いておけば十分です。
- 渡す範囲を絞る:つなぐサービスは必要なものだけにする。全部つなげばいい、ではありません。
- 鍵(API キー)を大切に:外部サービスにつなぐパスワードのようなものです。共有時は特に注意。
- 外から来る文章を鵜呑みにさせない:メールや Web ページの中に、AI をだます命令が仕込まれていることがあります(→ プロンプトインジェクションとは)。
とくに三つ目は、外へ広がったエージェントならではの注意点です。 AI が外の文章を読んで動く以上、その文章が安全とは限らない、という意識を持っておきましょう。 全体の心構えは AI を使うときの注意点 にまとめています。
よくある疑問
Q. 「横に広がる」と「上に広がる」はどう違いますか? 横は一つの AI が複数サービスをまたぐこと、上は得意な AI に得意な仕事を振ることです。「またぐサービス」が増えるのが横、「使う AI」が増えるのが上、と覚えると分かりやすいです。
Q. 複数サービスをまたぐには何が必要ですか? 土台は MCP という共通の差込口です。Gmail やカレンダーの MCP を登録すると、一つの AI がそれらをまたいで操作できます。
Q. AI を使い分けると手間は増えませんか? 増えません。まとめ役の AI が、どの仕事をどの AI に振るかを判断します。あなたは目標を渡すだけです。
まとめ
一つのアプリの中で自律的に動くエージェントは、その手を外へも伸ばせます。 広がる方向は二つ。横(サービスをまたぐ)と、上(AI を使い分ける)です。
- 横に広がる=一つの AI が Gmail・カレンダー・Slack などをまたいで動く(土台は MCP)
- 上に広がる=得意な AI に得意な仕事を振る(Claude と Gemini の使い分け)
- 二つが組み合わさると、一つの目標が外まで含めて最後まで進む
- 手が外へ伸びるぶん、つなぐ範囲・鍵・外部の文章には気をつける
前回の AI エージェントとは何か が「深さ(一つのアプリを賢く使いこなす)」なら、今回は「広さ(それを外へ繋げる)」の話でした。 まずは身近なサービスを一つつなぐところから、AI の手を外へ広げてみてください。